江村 康子
本日のゲスト
江村 康子 / Emura Yasuko
グラフィックデザイナー
長野県在住、地方のなんでもデザイナー。イラストも描くし、写真も撮るし、手書き地図 も書くし、チラシも作ります。家に猫がいます。「教えて!ドクター」と「手書き地図推進委員会」をよろしくお願いします。
村田 あやこ
あやちゃん/記事を書いた人
村田 あやこ / Murata Ayako
ライター
お散歩や路上園芸などのテーマを中心に、インタビュー記事やコラムを執筆。著書に『た のしい路上園芸観察』(グラフィック社)、『はみだす緑 黄昏の路上園芸』(雷鳥社)。「散歩の達人」等で連載中。お散歩ユニットSABOTENSとしても活動。
藤田 泰実
よっちゃん/イラストを描いた人
藤田 泰実 / Fujita Yoshimi
落ちもん写真収集家
グラフィックデザイナー/イラストレーター/落ちもん写真収集家。茨城生まれ、埼玉育 育ち。多摩美術大学造形表現学部卒。フリーランスのグラフィックデザイナー・イラストレーターとして活躍しながら、路上に落ちているものから人間の背景や余韻、人間味を感じ取り、そこから妄想してタイトルをつけストーリーを作り出す「落ちもん写真収集家」として活動。落とし物は人間ドラマという発想が注目され、テレビやラジオなどにも出演。
細野 由季恵
見守り人/撮影・編集した人
細野 由季恵 / Hosono Yukie
WEB編集者、ディレクター
札幌出身、東京在住。フリーランスのWEBエディター/ディレクター。エントリエでは 副編集長としてWEBマガジンをお手伝い中。好きなものは鴨せいろ。「おいどん」という猫を飼っている。

SABOTENSのお散歩、今回はドドンと遠征!長野県佐久市です。エントリエマガジンのデザインも担当してくれている、グラフィックデザイナーとして活躍される江村 康子(えむら・やすこ)さんと一緒に、小海線・臼田駅周辺をお散歩。アロエに溢れた呉服店に、公園の一角を耕す園芸家のおじいさん、巨大サボテンが育つ食堂。さまざまな形で植物を愛でる人が暮らすまちでした。

ラジオ付き自転車に、巨大な石臼          

藤田:今日は長野県!

細野:臼田駅に来てます。ゲストに、長野県佐久市でデザイナーをされている江村さんが来てくださいました!

江村:よろしくおねがいします!

藤田:ありがとうございます。今日は江村さん作の地図を見ながらお散歩します!

村田:やったー。

本日のお散歩にあたり、江村さんが描いてくださった散策エリアのマップ。
イラストで臼田駅周辺の見所を紹介。マップを見るだけで期待が高まります。

細野:江村さん、意気込みをお願いします。

江村:おもしろがれたらいいなと思います!

藤田:やるぞ!

村田:イエーイ!

江村さんとSABOTENS(SABOTENS村田、目をつぶってます)

木の板に「臼田駅」と書かれた渋い看板が掲げられた臼田駅の前で、地図と一緒に記念撮影。各自地図を手に、歩きはじめます。

村田:臼田駅はどんな駅ですか?

江村:通勤、通学の足として使われています。佐久は基本的に車移動なので、学生が使うことが多いと思います。

歩き始めてまもなく、一台の自転車に目が留まります。

荷台からラジオが鳴り響く自転車。臼田駅前にて。

細野:この自転車、ラジオがついてる……

江村:鳴らしながら走ってる……?

村田:魔女の宅急便で、キキがホウキの後ろにラジオつけて飛んでいるやつみたい。

江村:いい解釈。

駅前広場の一角には、立派な石も鎮座していました。

横断歩道を渡った先に、石。

村田:この石、なんでしょう。

細野:江村さんのマップによると、石じゃなくて臼。

藤田:石臼なんだ!

村田:(看板を読みながら)「この大石は2000年10月1日に新しい橋「臼田橋」が完成した折りに、工事中に千曲川河床から掘り出したものです」だって。

藤田:えー、これを!?

村田:この石臼に綱を巻き付けた綱引き大会で、領土取り合戦もしたんだって。へえ〜。

「ここを国境とす」と書かれた看板。領土取り合戦の名残?

細野:戦争じゃなくて綱引きで喧嘩してほしいね。

藤田:もしくは、いかに踊るか。「テンテンテンテン……♪」って。郷土料理をお互い食べ合って踊って、汗をかいて終わる。

村田:よりいい踊りができたほうが勝ち。

石臼のすぐそばで、五稜郭や神社に混ざって気になる看板も発見。

「日本で一番海から遠い地点」は、臼田駅から8.3キロ。

村田:「日本で一番海から遠い地点」っていう看板がある!

江村:そうなんです。山の中に看板が立ってるだけなんだけど、たまに人が来るみたいです。

アロエが店先を飾る呉服店

駅前だけですでに見どころ満載ですが、このままでは駅前で散歩が終わってしまうので、少しずつ歩き進めていくことにします。

カエルの置物を見て渋い顔をするSABOTENSよっちゃん(村田のこの格好は、何?)

村田:あ、空き地にカエルの置物!

藤田:私、生き物の中でカエルが唯一苦手……前に散歩してたときに、カエルの群れに遭遇したよね(大森編)。そのときも「いやああ〜!」って鳥肌が……。

村田:よっちゃんは昔、カエルに触ってブツブツができたんだよね。

藤田:そう。それでお母さんが神社でお祓いするっていう、スピリチュアル的解決をしたの。

村田:この草、変な生え方してる。

細野:こういうおじさんいるよね。

村田:駅前の通りは、「ふたご座通り」っていうんだ。

江村:佐久は「星のまち」として売っているんです。

村田:星がきれいに見えるんですか?

江村:それもあるんだけど、向こうの山の中にJAXAの大きいアンテナがあって。ロケット型展望台もあるんです。

村田:へえ〜!

建物の向こうにちらりと見えるロケット

「ふたご座通り」を進んでいくと、窓の内側にぎっしりとアロエやカネノナルキが並ぶ呉服店を発見!思わず目を奪われ、お店の方にお話を伺ってみることにしました。

窓辺を彩るアロエやカネノナルキ
創業86年の油井呉服店さん(長野県佐久市下越195)

村田:こんにちは、アロエ拝見してもいいですか?

油井呉服店さん:いいですよ。

村田:アロエいっぱい、すごいですね。

油井呉服店さん:みんな花が咲いたんだけど、もう枯れちゃったみたい。

村田:毎年お花が咲くんですか?

油井呉服店さん:毎年咲くよ。咲くと皆さんほしがるからね。ほしいっていったお客さんには「持ってって」ってあげるんだけど、どんどん増えちゃうの。葉っぱが出てくるじゃん。それを挿しておくと根がついちゃって、困るわけ。

村田:目にとまる方、多いでしょうね。

油井呉服店さん:霜が降りなくなったら表へ出して並べるんだよ。

村田:アロエやカネノナルキは、もともと園芸店かどこかで買ってこられたものなんですか?

油井呉服店さん:小さいのをお客さんにいただいたの。それがどんどん増えていって。

村田:お店の歴史を感じますね。

店内には、大きな人形も飾られていました。

村田:大きい人形も目を引きますね。これはどうされたんですか?

油井呉服店さん:うちに双子が生まれたときに、お祝いにいただいたの。

村田:お子さんたち、こんな大きな人形があると小さい時喜んだでしょうね。

油井呉服店さん:そうね、子どもは喜びました。窓辺に飾っていると、通る人たちも「わあ、大きいね」って。

村田:たしかに、アロエの奥にこの人形がいたら目を引きますね。

油井呉服店さん:大きすぎてどうにもならない。

細野:あ、狸だ。

江村:ほんとだ、狸がいる。コロコロ付き……!

村田:移動できるように付けたんですか?

油井呉服店さん:そう。そんなに重たくないけど。

村田:移動できると便利そうですね。

油井呉服店さん:そうだよね。

村田:うちにもこのくらいのサイズの狸の置物があるから、狸好きの夫(*)に紹介してみます。

*狸好きの夫……「むらたぬき」さん。「日本たぬき学会」会長。「タヌキ大学」副事務局長。#街角狸 で世界中に散らばった狸達をSNS上で一堂に集めている。詳しくはツイッター(@tetsuro5)へ。

お店の前で記念の1枚。

藤田:見て、お店の外に今年のカレンダーが貼ってある。

村田:ほんとだ!前を通る人のためかな。

細野:優しい方たちだったね。

村田:心遣いを感じた。店頭にアロエが並んだ様子も見てみたいな。

洋服や靴下などを取り扱っている油井呉服店さん。あたたかそうなレッグウォーマーを購入して、お店を後に貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

購入したレッグウォーマー。身も心も温かくなる思い出の一品となりました。

庭づくりで公園美化につとめる園芸家 “花サクおじいさん”

油井呉服店さんを出てしばらく歩いていくと、気になる小道を発見。小道に吸い寄せられがちなSABOTENS。迷いなく進んでいきます。

藤田:わ、めちゃくちゃいい道がある!

村田:いってみよう!

藤田:見て、すっごい古い腐敗してる傘。こんな傘はじめてみた!

細野:ゾンビみたい。

藤田:「ゾンビ傘」だね。多分この傘、溶けるまで一生ここにあるんじゃないかな。

細野:第一落ちもんは「ゾンビ傘」だ。

村田:このまま苔と一体化していきそう。

江村:令和が終わるまでいてほしい。

ゾンビ傘を撮る人と、それを記録する人。

村田:何年くらいここにいるんだろう。

藤田:久しぶりに気づかれただろうね。

村田:こんなに写真撮られることもなかっただろうね。傘にとって。君の勇姿を見届けてやったよ。

急に視界が開けたと思ったら、公園!

村田:小道の向こうは公園につながっていた!

江村:ほんとだ。こっちの方、来たことなかった。

苔にズーム。

藤田:祠の上に苔!

村田:苔庭が広がってるね。きれいだね。ズームして撮るとまさか祠の上だと思わない。富士山の5合目くらいに見える(いったことないので適当)。

富士山の5合目……?

公園の一角で、庭仕事をしている方がいらっしゃいました。

村田:こんにちは〜。お庭をつくっていらっしゃるんですか?

おじいさん:お庭をやってるの。

村田:なにを植えてるんですか?

おじいさん:いま植えてるのはスイセン。もうちょっとしたらアサガオ。このへんにはグラジオラスを植えてるの。あとはヒマワリ。

村田:季節ごとに楽しめますね!

この日はスイセンを植えていらっしゃいました。
お手製の看板。

藤田:この看板は、お父さんがつくられたんですか?

おじいさん:そうそう。中に入って盗られちゃいけないからな。

村田:お庭の手入れはお一人でやってらっしゃるんですか?

おじいさん:うん、一人。もう19年くらいになるかな。地元の新聞にも毎年取り上げられて、テレビに出たこともある。わざわざ見に来てくれる人も多いよ。「きれいだね〜」なんていってくれれば、張り合いがあるよね。

村田:お庭づくりのきっかけは?

おじいさん:自分のうちが近くだから。それまでは結構汚れていることで評判の公園だったんだよ。それではいけねえっつって、俺がやりはじめて。お金にはならないけど、楽しみでやってる。きれいだよ。季節ごとの花が咲くからな。

村田:おすすめの時期はありますか?

おじいさん:アサガオが咲くのは7月〜8月。毎年4月1日に種を蒔くの。みんな頭の中に入ってる。

村田:何色の花が咲くんですか?

おじいさん:水色と赤いのと、いろいろある。

村田:楽しみですね。

公園の美化のためにはじめたお庭づくり。「見てるぞ」看板も一緒に見守っています。

村田:お庭見られてよかったです。ありがとうございました。お元気で!

おじいさん:ご苦労さま。気をつけて帰ってね。

私たちは、臼田の公園を守るやさしいおじいさんを佐久にちなんで「花サクおじいさん」と呼ぶことにしました。

創業100周年の食堂に鎮座する、巨大サボテン!

公園を後にした一行。江村さんから「すぐそばに、大きなサボテンのある食堂がある」という情報をいただいたSABOTENSは、食堂を目指します。

藤田:わ、この食堂かな。

創業100周年の鈴本食堂さん(長野県佐久市下越206)

村田:見て、お店の中のサボテン、大きい!伊豆のシャボテン公園並のサイズだ。

入口のガラス戸の向こうに立派なサボテンが……!

入口からちらりと見えるサボテンに興奮していたところ、ちょうどお店が開店。中に入って昼ごはんをいただきつつ、近くでサボテンをじっくり見ることにしました。

村田:うわ〜……!立派だ!

藤田:でかい!

村田:神々しいね。

村田:上から見るといがぐり坊主の頭みたいでかわいい。

藤田:綿が猫みたい。

細野:お花咲くのかな。

江村:下に落ちてるのが花がらだと思う。

村田:相当たくさん咲いたんだな。

株分けされたらしき、小さな仲間たちも。
サボテンと一緒に記念撮影。

村田:サボテン立派ですね!植物園にありそうなくらいのサイズです。最初は小さかったんですか?

鈴本食堂さん:そうですね。シャボテン公園で小さいやつを買ってきて。37、8年経つかな。

村田:そうだったんですね。まさにシャボテン公園と同じサイズだ、と感動しちゃいました。いいものを見られてよかったです。ありがとうございました。

食事も絶品な鈴本食堂さん。こちらは信州ポーク丼。

村田:いやー、立派なサボテンを見られてよかった。よくあんなサイズになるまで育てて。すごいな。

藤田:素晴らしいサボテンだったね。愛されて生きていたね。

細野:いいお店だったね。

後編へ続く

本日の一コマ漫画

イラスト/藤田 泰実(落ちもん写真収集家)

心に残る佐久の風景

村田のミカタ:カーテンに潜むオバケ
藤田のミカタ :路上園芸アート

動画公開中!

お散歩した様子を動画でも公開しています。暇つぶしにぜひ!